シカゴの青い空


4月8日、朝7時に家を出て成田へと向かった。
JL010便シカゴ行きは、午前11時45分に出発の予定だ。

かばんにはパスポートと同じくらい大切なライヴ・チケットと
いくつかのお土産が入っている。

B.B.キングへのお土産は何がいいだろうか?
この1ヶ月いろいろ考えた。
きっと欲しいものは全て持っているだろう。
でも、何かプレゼントしたい。
高価なものでなくても、BBが喜んでくれそうなもの・・・

あれこれ考えていた時、
「アーバン・ブルース」(チャールズ・カイル著/ブルース・インターアクションズ刊)
という本に書いてあったBBの言葉を思い出した。
この本の中に「舞台裏のB.B.キング」という章がある。
一部インタビュー形式になっており、この中に出てくるBBの言葉全てが
私にとって重みのあるものだった。

著者のカイル氏が楽屋でBBにインタビューを試みた時、
話はおよそ三分に一回の割合で中断されたと書いてある。
次から次へと決して途絶えることのない流れのように
人々が「やってくる」らしい。

カイル氏はこう続ける。
「拒否されるものは一人もいない。
どんな願いであれ、断られることはない。
リーガル・シアターでスケジュールが組まれている一日三回のショーとぶつからない限り、
全ての依頼は受諾される。
そしてその時点で、BB自身の見積もりによると、
彼は六日前にシカゴに到着してから、
合計で十二時間足らずの睡眠しかとっていないのである。」

その理由としてBBは次のように答えている。
「この商売は、どんな人であれ鼻であしらうようなことをしては駄目ですからねぇ。
特に故郷へ帰ってない時なんかは、みんなが挨拶しにやってきますしね。
友達に背を向けるようなことをしたら、たちまちあいつは冷たい奴だ、
なんて噂がひろがってしまいますよ。
それにいずれにしても、自分の方から会いたいと思う人たちもたくさんいますし、
たとえ、顔は覚えているけど名前が思い出せない、というようなことがあっても、
その人たちが、自分の音楽を愛し、自分を慕って、挨拶に来てくれるんですから。
だから、
倒れそうなほど疲れ切っていて、小一時間眠れば回復できる、というようなとき以外は、
僕の楽屋のドアはいつも開けっ放しにしてあるんです。」

これを読んでiいると、
いかにBBがファンや友人を大切にしているかが手にとるようにわかる。
自分の睡眠時間を削ってでも、人々の要望に応えようとするBBの姿勢は、
誰にでもできることではない。
「素晴らしい人だ・・・」
ここに記されている様々な言葉から、
BBの温かいハートを感じることができた。

カイル氏が、ブルースの他にどんな音楽が好きかと聞く場面がある。
するとBBは、以下のように答えている。
「僕は、自分があらゆる種類の音楽に開かれていると思いたいですね。
来る者は拒まず、ってわけで、何でも聴くべきです。
家にあるレコードのコレクションは一万五千枚くらいで、
シリンダー・レコードもありますし、古い歌手の七八回転レコードも多いですよ。
ブルースの他にもたくさんあって、
どんな音楽でもほんの少しずつ揃ってるって感じですかね。
僕はスペイン音楽が好きだし、
日本のギターみたいな音のする楽器には、衝撃を受けました。」

「日本のギターみたいな音」という文字が出てきた時、私はビックリした。
BBにとって、それは「琴」を意味していた。
「・・・はじめはただ何となく聴いていたんですが、
二、三回聴くうちに心に響いてきました。
あれには正真正銘のソウル(魂)がありますね。」
BBが何を言おうとしているかがわかる。
私達日本人と心が通じているようで嬉しかった。
この時、BBへのお土産は日本の心を奏でた「琴」の音楽にしようと決めた。

JL010便は正午に成田を出発し、仙台沖から釧路沖に出てアラスカ上空を通過。
そしてロッキー山脈を越え、カナダからアメリカに入り、
ミシガン湖の南端に位置するシカゴへと降り立った。

機内で過ごした時間は約11時間。
持参したBBの自叙伝を読み返したり、音楽を聴いているうちに、
飛行機は無事、オヘア国際空港に到着した。
現地時間4月8日午前9時。
オヘア空港は、”The Busiest Airport in the world" といわれるほど
離発着数世界一を誇る大空港だ。
1日に約2500便、約35秒に1機の割合で航空機が離発着しているらしい。

14年ぶりに見るシカゴの空は、
青々と晴れ渡っていて、雲ひとつなかった。

<04・4・25>

Narita International Airport


JL 010

O'Hare International Airport